一眼カメラの将来のために業界がすべきこと3つ

今日は最近思っている事についてテキスト中心で投稿します。各所で問題提起されていますが、私からも少し発信していきたいと思います。

一眼カメラ業界の現状と課題

まず最初に、現在の一眼カメラ業界がどうなっているのか、という話です。

CIPA(一般社団法人カメラ映像機器工業会)が出している統計によると、デジタルカメラの出荷台数は、2020年まで毎年下降を続けていました。つまり一眼カメラは斜陽産業なのです。2021年の最終的な集計はまだ発表されていませんが、2021年11月までの数値を見る限り、幸いにして2020年から大幅に落ち込むことは無いようです。既に底を付いたとも言われていますが、実際に判明するのは今年以降の数値を確認できてからでしょう。

CIPA(一般社団法人カメラ映像機器工業会) デジタルカメラ統計より引用

段々と売れなくなった理由は明らか。スマートフォンに搭載されるカメラの高機能・高性能化です。数年前までは携帯電話とカメラを別々に持ち歩いていた層が存在しましたが、スマートフォンのカメラの高性能化に伴い、別々に持ち歩くメリットが見いだせなくなり、段々とスマートフォンだけを使うようになっていったというわけです。

このような状況の中、まだ継続して一眼カメラを購入している人たちも、もちろん一定数存在します。市場で何が起きているのかと言えば、購買層に初心者は少なく、製品を良く理解しているユーザーが中心の市場となっているため、メーカーはその嗜好に合わせて高付加価値商品へシフトしています。2022年1月17日現在の価格.comの人気売れ筋ランキングの上位機種を見てみましょう。

2022年1月17日時点の価格.com デジタル一眼カメラ 人気売れ筋ランキング

上位10機種のうち、フルサイズセンサー搭載機種は7機種。APS-Cセンサー搭載機でランクインしているのはX-E4、Z fc、D500の3機種のみ。X-E4やZ fcはエントリー機として購入する人もいるとは思いますが、どちらかと言うと嗜好性が高い、メインで他機種を使う人のサブ機、または、小型で気軽に持ち歩ける機種を探しているベテランユーザー向け、という機種だろうと思います。

市場で起こっているのは、基本的には、フルサイズセンサー至上主義化、そして、購買層の固定化です。つまり、同じ人達がさらなる高画質・高機能を求めてフルサイズセンサー搭載の最新機種を買い直しているのが現状です。上位10機種の販売価格中央値はなんとおおよそ36万円。一般的に、多くの人が喜んで嗜好品に出す金額ではないでしょう。

今はまだ、それでも市場が回っています。メーカーが新しいフルサイズセンサー機を発表すれば話題になり、注文が殺到します。半導体不足も相まって、生産が追いつかないほど。

しかし、この状況、いつまで続くのでしょうか。エントリー機が売れないということは、エントリーしている層が少ない、ということです。一方、カメラの熱が冷めてしまう人たちは、いつの時代も一定数いることでしょう。このまま行けばジリ貧で、いずれ高画質・高機能を追求しても売れない時代が来ます。と、言うより、もうその時代は目の前に迫っているだろうと思います。

では、カメラメーカーは何をしたら良いのでしょうか?

1. 新しいユーザー体験の創出

ただキレイな写真が撮れる、というだけでは、ユーザーはついてきません。誰もが高機能なスマートフォンを保有し、HDRや疑似的なボケ作成など、複眼レンズ・高速読み出しをフル活用したデジタル処理で一定以上のキレイな写真は撮れてしまうのです。

一部のユーザーは超高画質や自由な設定・編集を求めて一眼カメラを購入していますが、そうでない圧倒的多数にどのようにリーチすべきなのでしょうか?

これには、新しいユーザー体験の創出が必要だろうと思われます。つまり、スマートフォンでは出来ないことを実現する必要があるということです。

Pixabay

既にいくつかの成功例があり、GoProのようなアクションカメラや、富士フィルムのチェキ、リコーのTHETAなどは成功例と言って良いだろうと思います。海やスキー・スノーボードなど、アウトドアの過酷な環境というのは、スマートフォンの苦手なシチュエーション、というより、壊れてしまうので誰しも嫌がるシチュエーションです。ここにうまくフィットしたのが、アクションカメラという新しいジャンルだったわけです。また、今も昔も、撮影した写真をすぐに印刷して書き込みたい、というニーズはあり、若い世代には逆に新しくも見えるのが、チェキのようなインスタントカメラです。スマートフォンがプリンターを内蔵する可能性は極めて低いので、このようなカメラの人気は根強く残るわけです。THETAは他に類を見ない360度カメラという新しい分野です。

その他、望遠・超望遠撮影や動体撮影、星空撮影、天体撮影、マクロ撮影など、まだスマートフォンでは十分に実現できない分野は多数あります。マイクロフォーサーズやエントリークラスの一眼レフカメラなどは、もはや死に体とも言われますが、プロモーション次第ではまだ訴求力があるはずなのではないでしょうか。

2. スマートフォンとの更なる統合

スマートフォンには圧倒的な開発資金があり、大きな市場があるため、スマートフォンのカメラがこの先も進化を続けるのは必至です。また、処理能力も各社競い合って向上している最中です。つまり、カメラの高性能化のみならず、プロセッサは速くなり、扱えるRAMは増え、ストレージに余裕ができるわけです。この速くなった処理能力を使わないのは勿体ないです。

今でも多くの人は、SDカードにRAW画像を記録し、それをパソコンに取り込んだ後、Lightroomなどを使って現像、JPEGをエクスポート、という何重にもファイルのコピーと編集を繰り返したワークフローを用いています。各社、デジカメとスマートフォンをWi-FiやBluetoothで接続し、カメラの操作や画像の転送を行うアプリを用意していますが、正直言って酷い出来です。常用している人、いるのでしょうか?何より、初版の登場以降、何年経っても大きな進歩がみられません。接続にかかる手間と時間は、Apple製品に搭載されているAirDropなどと比べると、とても長く大変なままです。カメラとの連携アプリの抜本的な見直しは、カメラがこの先も身近なものであり続けるためには、絶対に必要となることでしょう。

Panasonic DMC-CM1 Wikipediaページより引用

また、多くの人にとってスマートフォンはカメラなのです。そもそも、カメラ単体としてスマートフォンから独立している必要性はないのです。Panasonicは、2015年にDMC-CM1という機種を販売していました。カメラにスマートフォンの機能を載せた製品でしたが、デジカメの生き残る形の一つとして、十分に再検討する価値はあると思います。似た製品として、最近では、ソニーがXperia PRO-Iをリリースして話題になっていました。1型センサー搭載を謳いつつも、有効イメージサークルが1/1.7型程度しかないなど、カメラ機能としては妥協も見られる製品ですが、デジタルカメラとスマートフォンの統合を目指した先進的な製品として、重要な意味を持つ製品だと思います。

SONY Xperia PRO-I オフィシャルサイト

3. プレミアム化

少し違った視点から生き残りをかけているメーカーもあります。

皆さんご存知の通り、Leicaは既に、最先端の技術で作られた高性能を売りにしているカメラメーカーではありません。主力のMマウントは1954年から続く、マニュアルフォーカスのレンズマウント。世界一シャープに写るわけでもなく、オートフォーカスすら無いこのマウントのレンズは、一つ50万円~100万円程度と非常に高価。もちろん、カメラ本体も、最新のM11は新品価格で120万円程。当たり前ですが、多くの人にとって、趣味で持つには高すぎる物です。一方、プロフェッショナル用途では機能・性能が足りません。それでもビジネスとして成り立つのは、ある程度お金に余裕がある人が、その価値を理解して、継続的にお金を出しているから。完全に、プレミアム指向の商品なわけです。

Fujifilm X-Pro3 オフィシャルサイト

日本でも、富士フィルムがX-Pro3でこの路線を歩んでいます。シリーズの特徴とも言えるハイブリッドビューファインダーに加えて、チタン製の外装、普段は折りたたまれて見えない代わりに、フィルムシミュレーションのモードを常時表示できるHidden LCDなど、かなり尖った仕様で市場に訴求しています。どれも、高コストな部品だと思われますが、「実用」には全く寄与しません。実用だけ考えれば、大型のEVFを搭載し、マグネシウム合金で外装を作り、大型のバリアングル液晶を搭載したはずですが、撮影時の(富士フィルムが考える)体験・フィーリングを最大限に重視した結果、このような製品が生まれたわけです。結果、私を含め、一部の人にとっては、所有することだけで既に価値を感じることができる製品になったと言えるでしょう。

同じく富士フィルムから発売されているX-E4も、10万円以下に抑えられた製品ながら、その性能や訴求ポイントであるサイズ・デザインを鑑みると、ある意味でプレミアムな体験を狙った製品であると考えられます。狙い通り、価格.comの売れ筋ランキング上位に食い込む成功を見せているようで、富士フィルムの精力的に取り組む姿勢には感銘を受けます。

ただし、このプレミアム化という路線は、全ての製品・メーカーが目指し、辿り着けるものではありません。やはりメインストリームではなくなりますし、何より、一歩間違えればただの勘違いメーカーに成り下がります。ブランドイメージの確立含め、長い時間をかけてユーザーの信頼を勝ち得たメーカーだけが、この路線にシフトすることができるのでしょう。

まとめ

多くのカメラメーカーにとって、ビジネスの存続が危ぶまれる、非常に危機的な状況が続いていると言えるかと思います。センサーサイズに拘らず、ユーザーの生活を彩るような、新しいユーザー体験を提供する製品が発表されることを望みます。

新しいユーザー体験という意味では、あまり大型でないセンサーのほうが、色々な製品開発の余地があるように思うのですが、いかがでしょうか。マイクロフォーサーズも超望遠撮影では根強い人気を誇りますが、今年は他の分野でも新しい進化を見ることができることを願っています。